ファラデーの伝- 磁気に働かるる光・光の電磁気説 -

十七、磁気に働かるる光

 そこで、電気力の代りに磁気力を用いたところ、今度は直ぐに成功した。その道順は、

「一八四五年九月十三日、

「今日は磁気力で実験をやった。これを透明な種々の物体に、種々の方向に通し、同時に物体内を通した偏光をニコルで調べた。」

 この種々の物体というのは、空気、フリントガラス、水晶、氷洲石で、朝から一つ一つ取りて試み、また磁石の極を変えたり、偏光を送り込むニコルの位置を変えたり、磁石をつくる電池を強くしたりしたが、どうしても作用が無い。そこでファラデーは最後に重ガラスを取った。これは以前、光学器械に用うるガラスの研究をしたときに作ったものである。

「重ガラスの一片、その大さは二インチおよび一・八インチ、厚さ〇・五インチ。鉛の硼硅酸塩。これで実験した。同じ磁極または反対の磁極を(偏光につきていう)両側に置きて、直流並びに交流で実験したが、結果は見えない。されど反対の磁極を一方の側に置いて実験したら、偏光に作用した。これによって、磁気力と光とは互に働き合うことを知り得た。これは非常に有望のことで、自然界の力の研究に大なる価値があるだろう。」

と書いた。

 それから四日間休み、その間にもっと強い磁石を他から借りて来た。これで実験したところ、著しく作用が現われた。かつ磁石の作用は偏りの面を一定の角だけ廻転さすので、この角は磁気力の強さにより、また磁気力の生ずる電流の方向によることも発見した。

 そこで、前に成功しなかった種々の物体を取って再び試みたところ、どれもこれも好成績を示した。

 十月三日には、磁場に置いてある金属の表面から反射する光につきて実験し、鋼鉄の釦(ボタン)ではその面から反射する光の偏りの面が廻転するようであった。しかし、この釦の面はごく平かでないので、結果も確実とは言えなかった。

 磁場に置いてある金属の面で光が反射する場合に、偏りの面の廻転することは、後にケルが確かめた。ケルの効果と呼ばれるのがそれである。

 十月六日には、ガラス瓶に液体を入れ、これを磁場に置いて、何にか機械的または磁気的作用が起りはせぬかを調べたが、これも駄目であった。

 次にファラデーは、磁気が光に作用するからには、反対に光から磁気を生じ得るのではあるまいかと考えた。十月十四日は幸いに太陽が強く輝いておったので、この実験を試みた。コイルに作った針金を電流計につないで置き、コイルの軸の方向に太陽の光を導き入れたので、初めにはコイルの外面を葢(おお)うて内面のみに日光をあて、次には内面を葢うて外面にのみ日光をあてた。いずれも結果は出て来なかった。

 それからコイルの内に磁気を全く帯(お)びない鋼鉄の棒を入れ、これを日光にさらしつつ廻して見たが、やはり結果は無かった。

 ファラデーがかようにいろいろとやっても見つからなかった作用も、後には器械が精密になったので、段々と見つかった。その二、三を述べよう。セレニウムは光にあてるとその電気抵抗が変る。また光にあてて電流を生ずるものもベッケレルが発見したし、かつ菫外線を金属にあてると、金属から電子の飛び出ることもヘルツが発見した。

 さてファラデーは、以上の研究をまとめてローヤル・ソサイテーに出したのが、一八四五年十一月六日のことで、これが「電気の実験研究」第十九篇になっている。表題には、「光の磁気を帯ぶること」または「磁気指力線の照明」というような、妙な文句がつけてある。

十八、磁性の研究

 ファラデーのこの論文がまだ発表されない前に、ファラデーはまた別の発見をした。すなわち十一月四日に、先頃他から借りて来た強い磁石で、前に結果の出なかった実験を繰り返してやって見て、好成績を得た。それは普通に磁性が無いと思われている種々の物体も、みな磁性があることを発見したのである。これも第一番に、前の重ガラスで発見したので、ファラデーの手帳に書いてあるのにも、

「鉛の硼硅酸塩、すなわち重ガラスの棒を取った。これは前の磁気の光に対する作用を研究するときに用いたもので、長さ二インチ、幅と厚さは各々〇・五インチである。これを磁極の間に吊して、振動の静まるのを待つ。そこで電池をつないで磁気を生じさせたから、ガラスの棒はすぐに動いて[#「すぐに動いて」は底本では「すぐに動いて」]廻り出し、磁気指力線に直角の位置に来た。少々振動させても、ここで静止する。手でこの位置より動しても、すぐに元の所にもどる。数回やっても、その通りであった。」

 これから種々の物体について、やって見た。結晶体、粉、液体、酸、油。次には蝋(ろう)、オリーブ油、木、牛肉(新鮮のものおよび乾いたもの)、血。いずれもみな反磁性を示し、ことにビスマスは反磁性を強く示した。

 これらの研究の結果は一八四五年十二月に発表し、例の「電気の実験研究」第二十篇におさめてある。同第二十一篇はこの研究の続篇で、翌年一月に発表した。これは鉄の化合物に対する研究で、固体でも液体でも、塩基の部分に鉄をもつ物はみな磁性を示し、絵具のプルシァン・ブリューや緑色のガラス瓶に至るまでも磁性を示すことが出ている。

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入力:松本吉彦、松本庄八 校正:小林繁雄

このファイルは、青空文庫さんで作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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